1 賃金は、原則通貨で支払わなければなりません(労働基準法24条1項本文)。
しかし、労働協約で別段の定めをする場合には、現物(社宅等の住宅貸与、食事提供、自社製品、通勤定期
等)を給与として支払うことも可能です(同法24条1項但書)。
但し、労働協約は、労働組合と使用者との間で締結されるものですので(労働組合法14条以下)、労働
組合のない企業では現物給与で賃金を支払うことはできません。
実務上、現物給与を支払っている実例は多くはないと思いますが、法律上の要件を満たさないまま漫然
と現物給与を支払っている(と思っている)場合、事実上の給与の二重払いが必要になる可能性か生じる
ため、注意が必要です。
2 現物給与となる場合
例えば、食事提供の場合、従業員から食事代の3分の2未満しか徴収していない場合は食事代(都道府
県ごとに「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」として定められています)から徴収金額を控除した残
額が現物給与価額となります。令和6年4月以降における現物給与の額は、以下のリンク先をご参照くださ
い。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.files/2024.pdf
例えば、新潟県の場合、食事代や住居費として、以下のように定められています。
1人1月当たりの食事の額 22,800円
1人1日当たりの食事の額 760円
1人1日当たりの朝食のみの額 190円
1人1日当たりの昼食のみの額 270円
1人1日当たりの夕食のみの額 300円
1人1日当たりの住宅の利益の額(畳一畳につき) 1,360円
その他の報酬等 時価(自社製品・通勤定期代等)
現在の物価を基準にすると、一食あたりの金額を190円から300円の原価に抑えることは非常に難しいと
思います。また、畳一畳は1.62㎡以上の広さがあるという意味で用いることとされていますので(「不動産
公正取引協議会連合会」の「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則11条16号)、畳三十畳(約48.6㎡)で
ようやく40,800円になり、(もちろん物件の立地・築年数・設備等にもよりますが、)同等の広さのある物件
の賃料より大幅に低い金額になるものと思われます。実務上、現物給与を支払っている実例は多くはない
と先ほど説明しましたが、従業員からしてみれば現金で支給してほしいのは当然であるうえに、企業側か
らしてみてもメリットに乏しい(=現物給与として評価される金額が実勢価格よりも大幅に低い)ため、
今後もあまり普及していかないものと思われます。当事務所としても、現物給与についての相談がある場
合には、当然に個別の事情にはよるものの、なるべく現物給与を廃止する方向でアドバイスいたします。
なお、現物給与価額の3分の2以上の価額を食事代として徴収(負担)している場合は、現物給与はないも
のとして取り扱います。