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1 会社側の労働問題として相談の多いテーマが「問題社員」対応です。
 最善の対応策は個々の事案に応じて検討せざるを得ませんが、「やらない方が良いことが多い対応」については、ある程度定型化できるように思いますので、以下のとおり記します。
2 解雇(懲戒解雇・普通解雇)
 会社側としては、最も素朴な対応です。
 しかしながら、紛争になれば解雇が無効となる可能性が高く、かつ、会社(=労務提供の債権者)は労働者が自宅待機していた期間の反対給付の履行(=賃金の支払い)を拒むことができません(民法536条2項)ので(いわゆるバックペイ)、会社にかなりの負担が生じるリスクが高い対応といえます。現代では、各種助成金の支給要件として、会社都合での退職者がいないことが定められていることが多いため、助成金の支給を受けている会社では、尚更にハードルが高い対応になっています。
 したがって、問題社員対応として、解雇はお勧めしません。
3 退職勧奨
 一方的に解雇できないなら自主的に辞めてもらえばいいと思うのは、発想としては自然ですし、法的側面だけを言えば、社会的に不相当な方法・態様(長時間にわたって繰り返し退職を促す、対象者が拒否しているのに退職を促す、など)に至らない限り、違法とは評価されないとまでは言えます。
 しかしながら、生の紛争を見ている限り、退職を勧奨して素直に応じる従順な「問題社員」はあまり想定できません。会社側に反抗的だからこそ「問題社員」であって、そのような態度の社員に退職を勧奨すると、かえって紛争という火に油を注ぐ結果となる可能性があります。
 また、会社側としても、違法と評価されない退職勧奨の具体的な言動について線引きが難しく、かえって対応に困難が生じているように思われます。
 したがって、退職勧奨もお勧めしていません。
4 配転命令
 一方的に解雇できず、自主的に辞めてもらうことも難しいということで、次に思いつくのは、配転命令(配置転換)です。
 配転命令は、過去の最高裁判例でも原則的に有効であると判断されており、3つの例外的場合(①業務上の必要性がない場合、②配転命令の動機・目的が不当・違法である場合、③労働者の受ける不利益が著しい場合)に限って、権利の濫用として無効になります(最判昭和61年7月14日)。このような法的枠組みを踏まえて、配転命令を検討するように会社側にアドバイスする弁護士や社労士が現在でも多い印象を受けます(あくまで私の個人的印象です。)。
 しかしながら、(また私の個人的印象ですが、)多くの裁判官は、①の認定は厳しいものの、②③については比較的緩やかに認定する傾向にある(=配転命令は無効)ように思います。特に、退職勧奨をした後に「辞めないのなら配転してしまえ。」という発想で配転命令をしてしまうと、②実質的には退職させるという不当な動機・目的があると認定されるリスクが高いと思われます。
 このようなリスクを踏まえ、私個人としては、配転命令をお勧めすることも慎重になっています。
5 懲戒処分
 軽い処分(譴責等)であれば実益がありませんし、具体的不利益を伴う重い処分(懲戒解雇・降格等)であれば重い処分であるほど無効リスクが生じます。
 結局、懲戒処分も、現実的な対応にはなっていません。
6 以上です。あえて「やらない方が良いことが多い対応」と回りくどい表現を用いたのは、現実の紛争に直面した場合、会社側で取り得る方法は以上のいずれかに限られていることも多く、リスクを承知のうえで対応しなければならないことがあるためです。
 弁護士の立場を離れたところから俯瞰すると、問題社員対応で悩んでいる会社は、実は会社自身が労務管理に問題を抱えていることがあります。そのような場合には、今度は社労士として労務管理の制度構築についてアドバイスすることもあります。

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